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TPP関係で著作権について気に掛けておくこと備忘録。

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10月5日のTPP大筋合意が報じられてから、ブログに関係しそうな著作権の話題をふわっと追いかけてます。権利者側というより、主に利用者側の視点で。

まだまだ国際的な手続きが続いていて、そこから国内法がどうなるかは年単位の話ですが、気づいたら終わってただと遅いかなーと。定期的に意識を向けないと、馴れて脳がスルーしちゃいますし。

そんな訳で、TPP関係で著作権について気に掛けておくこと備忘録です。一次ソース確認を心がけつつも、専門家ではないので事実関係で誤りあれば指摘いただけると嬉しいですー。

 

おさらい兼ねた現状。

著作権法では、一定の例外的な場合、著作権者等に許諾を得ることなく利用が可能です(著作権法第30条〜第47条の8)。

著作物が自由に使える場合|文化庁

「私的使用のための複製」や「公的機関の複製」といった行為が含まれます。

ブログに関係しそうなところだと「引用」ですね。なお、引用のつもりであっても「引用の要件」(出所明示や主従関係など)を満たしてない場合は無断利用と変わらないのでご注意。手前味噌ですがご参考まで。

漫画のコマ画像をブログで引用するときの著作権的な留意点って?

 

一方、著作権法上「翻案」と呼ばれる、オリジナル作品の二次創作(パロディ)や本の要約等の行為は、著作権者等の許諾が必要な場合がほとんどです。

著作権法上、本の引用・要約・目次をブログに書く時気をつけること。

翻案権とは、著作物に創作性を加えて別の著作物を作る行為で、要は、小説の映画化やアニメ化、二次創作、文書の要約などです。翻案権も著作権者の権利で、これらの行為を行うには著作権者から許諾を得る必要があります。

 

著作権者等の許諾が必要な場合でも、無断利用ですぐさま刑事責任が問われるわけではありません。親告罪となっており、著作権者等からの「告訴がなければ公訴を提起することができない」ためです(著作権法123条)。

現状、著作権者等の中には、オマージュ(敬意)要素が強いor/andオリジナル作品の宣伝効果がある二次創作に対して、権利行使せず黙認や放置している場合も多いと言われています。

「政府は漫画文化をつぶすのか」。ここ数年、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を見守る出版関係者などの間で、そんな心配が高 :日本経済新聞

以前、同人誌即売会が存続する理由を取材したことがある。プロの人々は「ファンのすることだから」「気持ちが分かるので」と自作のパロディーを告発しない理由を語った。混沌の中でこそ次の才能が芽を吹くとの声もあった。公認でも否認でもない、黙認や放任という知恵。そうした曖昧さの中でこそ育つものがある。

自分の観測範囲でその立場の人に聞いても、近い考えを持つ人が多い印象があります。もちろん、単純に手続きが煩雑で効果は薄いから、というのもあると思いますけれど。

ここら辺は人/組織によりけりなので、勝手に解釈してもしょうがない部分ではあります。著作権者等から指摘があっても、裁判で結論が出るまでは撤回しない、という判断もあり得ますし。

 

TPP大筋合意の著作権部分。

内閣官房のホームページで公開されたTPP協定の概要です(既知の保護期間延長については割愛)。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要(PDF)

〇 著作権 著作権に関しては次のルール等が規定されている。

  • (略)
  • 故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。
  • 著作権等の侵害について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。

親告罪が現代採用されている部分が「非親告罪」になることで、今後、第三者による告発も可能になると言われています。

例外として、「市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合」はこの限りではありません。報道各紙が「アニメ・漫画の愛好家もひとまず安堵し~」というのは、このただし書き部分が理由ですね。

 

ただこの「収益性に大きな影響を与えない」範囲が曖昧で、専門家や関係者の間では議論になっています。国内法でどのような規定になるか、ですねー。クールジャパンを謳う以上、取り締まりを厳しくしすぎることはなさそうですが...。

TPP:政府、懸念払拭に躍起…著作権など不安の声|毎日新聞

このためTPPでは、もとの著作物の収益に大きな影響を与えない場合は非親告罪を適用しないとの例外を盛り込み、「パロディーは問題ない」(政府関係者)という合意内容にしたという。ただ、関係者からは「どうやって収益に影響があると判断するのかなど12カ国で考えを共有できているのかが疑問」といった声も根強い。

 

超ざっくり! TPP著作権問題の現在地点 -INTERNET Watch

ただし、一応正確を期しておけばリークされた条項案では、「商業的規模」とは「経済的利益を求めての行為」「利益目的ではなくても、市場で権利者に不利な影響を及ぼす重要な行為」を少なくとも含む、とされるので(QQ.H.7.1項)、かなり幅広い侵害が対象にはなりそうだ。加えて、問題の「大きな影響」の原文は注44にあり、直訳すれば「市場における権利者による作品の活用可能性に影響(impact)がある場合に、非親告罪化の対象を限定することができる」である。実は「大きい影響」とは書いていない。

 

もうひとつ、これも国内法にどう書かれるかわからない「法定賠償金」の部分。

裁判を経て著作権侵害が明らかになった場合、現行法では、

  • 刑事上の措置:10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金」(著作権法第119条第1号)等
  • 民事上の措置:損害賠償請求(民法第709条、著作権法第114条(損害額推計))、差止請求(著作権法第112条、第116条)、不当利得返還請求(民法第703条、第704条)等

が取られる可能性があり(著作権なるほど質問箱を参考に作成)、著作権者等が民事上の措置として損害賠償請求する場合、実際の損害額を立証する必要があります。これが一種、著作権侵害の告訴のハードルでもありました。

「法定賠償金」の導入で、裁判所が一定額の賠償の支払いを命ずることができるようになります。アメリカの法定賠償金の例をみると、かなり高額のような…抑止力的な意義があるからですかねー(上記の「超ざっくり! TPP著作権問題の現在地点」で詳しい)。

NHK NEWS WEB 知的財産の主な合意内容|今さら聞けないTPP 基本がわかる13のカード

このルールが導入されれば、権利者が損害額を立証をする必要がなくなり、悪質な海賊版などに対して訴訟を起こしやすくなる一方、軽微な侵害についても訴えられるリスクが増えることになります。

あまり裁判慣れしてない日本だと、著作権者等の側の心証が悪く侵害側が悪質なケースだけでは?という気もしますが、著作権ビジネスで儲けよう!という人が動き始めたら、誰もが関係してくるの、かもー?

 

何を気に掛けておくか。

著作権に限りませんが、TPPで自分が影響がありそうな分野があれば、国内法の検討状況を十分注視して、ですねー。まだ具体的に決まっていることは少なくて、でも待ちの姿勢が過ぎると気がつけば後の祭り、なんてこともありそうです。

 

そもそも侵害するようなことをしていなければ、親告罪/非親告罪限らず影響はない、という考えもありますし。

ただ、自分は著作権侵害に該当しないと認識していても、悪意の通報がなされる可能性は常にあって、他人のヘイトを貯めないのは予防措置として有効かもなーと思ってます。これはアドセンス通報への予防措置と同じで(やってないので想像)。

通報合戦に巻き込まれて迷惑を被るのは著作権者本人なので、パブリックライセンス(自分の作品についてどこまでの範囲なら無断で利用して良いか、著作権者が意思表示すること)的な仕組みが一気に進む気もします。

パブリックライセンスはこちらの本が詳しいです。

 

あと、この記事書くために、今まで著作権と言えば福井健策先生(@fukuikensaku)の本ぐらいしか真面目に読んだことなかったのですが、こちらの本も読んでみました。知り合いに薦められたのと、著者の方が文化庁の著作権担当を歴任していて、立法側の視点読めるかなーと思いまして。

著作権―それホント?

著作権―それホント?

 

著作権の基本的な事項が網羅された上で、先行者利益やロビイング活動の結果としての現法の仕組みが書かれていて興味深かった。

その中で特に、TPPの著作権議論での取り上げられることの多い「フェア・ユース」(「公正な利用」の場合には著作権者等の許諾がなくても権利侵害に当たらない)は、自分、結構考えが変わった気がします。正直「日本もアメリカと一緒でフェア・ユース導入すればいいじゃん」て単純思考してた。以下引用します。

「フェア・ユース」という考え方が機能している背景には、①行政に頼らず常に裁判で問題を解決しようとする国民性、②迅速な裁判を受けられる司法制度、③裁判を回避するための民間の契約・合意システムの発達―というったアメリカ社会の特性があります。(略)

なお、大規模な司法制度改革を行わずに日本の著作権法に「フェア・ユース」の規定が盛り込まれたら、既存のコンテンツを使って億単位の利益をあげることが簡単にできるようになるでしょう。この制度は要するに、「裁判で違法とされるまでは、すべて合法と主張し得る」ものだからです。

グーグルの書籍電子化の訴訟って、そうかここに繋がるのかと素人ながらに納得した次第です。偶然にも本日、このような記事が出てますし。

グーグル勝訴で浮き彫りになるフェア・ユースと著作権の問題 « マガジン航[kɔː]

著作権者の権利の保護を図る、のか、その先にある公益なのか。著作権者といっても、先行利益を得てる人とこれから知名度を上げていきたい人は違う気もするし...どうなんでしょう...(思考停止)。

 

警察組織がこのためだけに拡大するとは想像しにくいし、みんなが困る曖昧な条文のまま「どうしても争いたい時は裁判で!」な未来の可能性が高いんじゃないかとも想像しつつ。楽観しすぎるのもあれなので、最低限のリスクマネジメントは考えた方がいいんだろうな、と漠然思考してこの記事〆です。

 

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